「郷土の電子出版」の時代はじまる!

奥会津の歴史とともに生きている



 もう12年前になる。たまたま友人の家でみた雑誌の投書欄の「古民家を無料でゆずります」という一行に目が留まった。
 そのころ私は、自分の家を設計するために設計士と議論を重ねているときであった。
 「無料か、ダメモトだな」と思って、その雑誌を片手にすぐに電話をかけた。
 「あなたで10人目ですよ」という相手に畳み掛けて「で、誰か訪問した人はいますか」と聞くとまだ訪問者はいないという。「急げ!」翌日、私は車に跳び乗った。気候は晩秋で紅葉はすでに終わっている会津西街道を、会津若松から昭和村に向かった。
 投稿主のおばあさんにお目にかかった。最近亡くなった90歳を超えた祖父が一人で住んでいた農家の話であった。
 「奥会津は雪深く、放っておくと家が雪でつぶれてしまう。そうかと言ってこのまま壊してしまうと……あの娘は……と言われそうだ。なんとかおじいさんが愛した家を大事に再利用してくれる人がいないかと、投書したのだ」という説明だった。
 見せていただいた家は江戸時代の終わりごろ建てられた、藁葺きの大きな養蚕農家だった。毎年の厳しい風雪を150年以上も耐えてきたがっしりしたたたずまい、見たこともないほどの巨大な大黒柱や真っ黒な太い梁に圧倒された。
 「きっと死んだおじいちゃんが喜びます」。おじいさんが彫りかけていたという未完成の木彫りの小さな仏像をいただいて、その古民家をもらうことになった。
 一冬が過ぎ、翌年の春、雪融けとともに解体し、大型トラック2台に積み込んで、新築の現場に運んだ。
 私は都会生まれなのだが、それ以来ずうっと会津地方のファンなのである。地方には変えようもない歴史がある。
 天井を見上げては150年以上もたった真っ黒な巨大な梁を見つめている。マンションなんかに住むもんか。おじいさんの彫りかけの仏像も大黒柱の上のほうに隠してある。私はいつも懐かしい奥会津の空気を吸っている。都会の薄っぺらな便利さがなんぼのもんか。
 それ以来、会津関連の本を探して読んだ。なんども会津の温泉に旅行に行き、オートバイに乗ってツーリングをした。
(「首都圏の本」“「郷土の電子出版」の時代はじまる!イーブックイニシアティブジャパン社長 鈴木雄介”より)
郷土の電子出版

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